ストリートスマート

 毎日「時間」というエスカレーターないし、車に乗っている。こんな気でいる。
 身体は進んでいく。景色もみるみる変わっていく。頭や気持ちは置いていかれる。距離は離れるばかりだ。どこか心細さに耐える感覚は永遠に続く。どうしようもないものだ。きっとこの感覚は正しい。
 長時間のドライブ、桜の季節、不安や恐怖が際立つのは、儚さに直面しているからだろう。
 
 朝は、雨を待つような空で、気温の低かった。思わず暖房をつけてしまった。
 冷たい空気が肌を刺す心地が、気持ちをしゃんとさせる。冷静な思考を取り戻させる。
 「ストリートスマート」という概念を知った。外見ではない人間味の魅力を磨いた個を目指すという考え方だ。私が念頭に置いてきた理想を、一言で表現できる言葉に出会えた。嬉しい。
 頭の回転が早く、気の利いた会話を交わせるようになりたい。声、表情、言葉、雰囲気、文章、発言、自分から発信するすべての表現が、柔軟で豊かな女性になりたい。
 「表現力」というものは無限だ。誰にも未知だ。恐ろしくもあるが、どこまでも夢があり、希望を持たせる。実感が人それぞれというのもいい。価値を置かない人もしくはそもそもその実態に気づかない人もいるが、私は何を差し置いても価値のあるものだと思う。感性を一律で共有できないから、自分がどこにいるのかがわからない。それもフェアでいい。
 厳しいけれど、救われる世界を神様は作った。お偉い人や、声の大きい人が定めた規則や枠組が効力を成せない、人間力だけが活きるフェアなこの世界で、私は仲間を作り、上を目指したい。
 心を解き、自由に泳ぎ、すべてを見つけ、命を与えるような表現を、自分の手で作り出していけるのなら、それほど幸福なことはない。
 曲を書きたい。小説にしても音楽にしても、美しく、リアルな表現に出会い、自分のものにしたい。
 表現を極めた、自分の心に正直に向き合ってきた人達の境地を、すべてさらいたい。同じところで手を繋ぎたい。
 実態のない夢が広がる。周りには信じがたい夢だけを、叶えるために生きている。
 
 恋愛さえも、私にはゲーム感覚なのかもしれない。
 結婚を目標に恋愛をしたいのではないと気付いた。私にとって恋愛の価値は、非日常に心が動く充実とスリルと成長なのだ。結婚やお付き合いというものは、ただの状態でしかない。私は自分を豊かにするものにしか価値を感じない。
 
 ある番組を見て、これまで聴いてこなかったクリープハイプの良さをかじった。あるアーティストの尊敬者を聞いて、自分と何も変わらないのだと思った。ミスチルの深海をじっくり聴きたいと思った。
 指がお風呂上がりのように心に馴染む音をならす。
 慌てなかったとしても、タイミングは逃さないでいたい。溺れず、固くならず、目を伏せていても、口元は微笑んでいたい。
 道を外した頃から、太陽に手を伸ばし、夏を掴もうとした。あの時とはまた違う気持ちで、今年の夏を迎えたい。