チャンスか失敗か

 案外どうにかなるものだ。一晩経って生きた心地が戻ってきた。
 
 月に翻弄されたなし崩しの身でも、不幸中の幸いがあるものだ。幸いと認めたくないが、だいぶ気が楽になった。
 彼にメッセージを送った。弱気になってどうでもよくなった。関係が継続になった。
 私に映る彼は最低だ。でも距離を置いて残ったのは未練だった。彼の誠実や真剣を私が理解できないだけではと。
 私は自分のフィルターに自信が無い。間違った認識は嫌だ。
 それに彼は私が珍しく会いたいと思う人。この感覚は貴重だ。
 
 表参道の矯正歯科で下のワイヤーを外し、柏の歯医者で虫歯を治療してもらった。その間に母とショッピングを楽しんだ。
 休日の気合いの入っていない格好。表参道の空気。柏の空気。電車に揺られる心地良さ。何もしないことを許せる時間。眺める歌詞。蕾が開いていく香ばしい気持ち。消費に飢えてデパートに群がる人達。控えめに粘り強くお店を開ける店員さん。夏の歌。入道雲がそこまで見える。思わず揺れ動くしっぽ。私の帰りを心から歓迎する純粋と愛情。犬はちゃんと愛を知っている。
 溢れる父の鼻歌。引き出せたことを密かに喜ぶ私。塩加減が絶妙な鰆の塩焼き。まだ春でいい。止まらない口。ここにいる人達が聞いてくれる相手であること。私の要素は全て他人に作られている。
 寝不足でまぶたが重い。知らず知らずに疲れているけれど、大したことはない。帰って休める家がある。真っ暗な景色。街灯が左から右へ過ぎ去っていく。
 過ぎていくことは諦めなければならない。それでも前向きに明日を待つ。弟の境遇。選んできた道。どうかそこに優しい灯火を。遠くから願うことしかできない。
 揺れるロングスカート。響く低音。1日が終わった。心に正直に生きるのは難しい。
 
 誤ちから生まれるチャンスもある。チャンスか失敗かわからないなら、どちらとも考えないほうがいい。
 人の噂話は、吐きそうなエピソードがたくさんある。目が回る。本当にどうでもいい。
 誰でも、いいところが見えて、ずっと変わらず好きで、信用していられたら、どんなに楽だろう。